「この舞台の主役、その役割は…。」
プレイデータ:
推奨人数: 1〜3人
想定時間: 1〜2時間
推奨技能: 《歴史》、《図書館》、《心理学》、《目星》、《精神分析》、《水泳》
神話生物:ハスター
あらすじ:
琥珀色の夕陽が沈む海辺のコテージ。最高のバカンスを過ごしていたはずの探索者たちは、ラジカセから流れる不気味なノイズと共に、世界の「剥落」を目撃する。 水位は上がり、窓の外には太陽を拒絶した漆黒の深海が広がる。 これは脱出劇ではない。名状しがたき王に捧げられた「舞台」の上で、自らの配役を書き換えるための、命懸けの即興劇(エチュード)だ。
「闇の深さ」インジケーター: ★★★★★★
【第一層】
1.導入と異変
窓の外には、水平線に溶けていく大きな夕陽が広がっています。琥珀色の光が部屋に差し込み、波の音と、ラジカセから流れる軽快なボサノバが、探索者を祝福しているようです。
ここは海辺のコテージ黄昏号(トワイライト号)。
都会の喧騒を忘れ、友人の瀬戸と過ごす最高のバカンス。
瀬戸ステータス
STR:10 APP:8 INT:14
所持技能
目星:50 歴史:60 図書館:60 水泳:40
…ですが、あなたたちはふとした瞬間に、言いようのない違和感を覚えます。
楽しい会話を遮るように、ラジカセから「ギギギ……」と、耳を刺すような不快なノイズが混じり始めます。調子が悪いのでしょうか。音楽は次第に歪み、まるで誰かが水の中で叫んでいるような、くぐもった音に変わっていきます。
探索者の皆さん、自由に動いて構いません。この不快な音をどうにかしますか?それとも部屋を調べますか?
2.探索ポイントと処理

図1:第一層MAP
A. ラジカセを調べる
古い型ですが、手入れの行き届いたラジカセです。「高音・中音・低音」の3つのつまみが並んでいますが、今はどれもデタラメな位置を指しています。
≪目星≫つまみのすぐ横に、小さな「貝殻のマーク」が刻印されていることに気付きます。
B. 棚を調べる
棚には装飾品として3つの美しい貝殻が並べられています。手に取ってみると、中で何かがコロコロと転がる感触があります。
≪覗いた後伝えてOK≫中を覗けば、それぞれに「真珠」が入っていることがわかります。(左の貝に3つ、真ん中に2つ、右に8つ)
≪歴史≫ この真珠を供える並べ方は、この地方に伝わる「深淵の門を開く儀式」の形式に酷似していることに気付き、背筋が凍ります。
C. 友人(瀬戸)を≪心理学≫で見る
≪心理学≫怯える素振りを見せながらも、彼の瞳はラジカセを操作しようとするあなたの手元を、期待に満ちた熱っぽさで凝視していることに気付いてしまいます。
3. 世界の崩落
(探索者がつまみを「3・2・8」に合わせた瞬間に読み上げてください。)
──カチリ。
最後のつまみが合うと同時に、陽気な音楽は完全に途絶えました。
代わりに、ラジカセのスピーカーから溢れ出したのは、
「ミシミシ……パキィィィィィン!!」
という、猛烈な力で鉄塊が引き裂かれるような音。次の瞬間、窓の外の夕陽に大きな亀裂が走り、バリバリと音を立てて崩れ落ちます。剥き出しになったのは、太陽など最初から存在しなかったかのような、光を拒絶する漆黒の深海。
部屋の照明がすべて破裂し、非常用の赤い光が探索者たちを血の色に染め上げます。
そして──足元には、どこからか入り込んだ冷たい海水が、逃げ場を奪うように迫ってきました。
第一層:クリア。ようこそ、深淵へ。
【第二層】
1. 変わり果てた部屋
轟音と共に世界が暗転し、非常灯の赤い光だけが室内を不気味に照らしています。窓の外は完全な漆黒。凄まじい水圧で、窓枠がみしり、みしりと悲鳴を上げています。
水位はすでに膝の高さまで達しました。さっきまでバカンスを楽しんでいた家具や書類が水面にぷかぷかと浮き、壁紙が剥がれ落ちた跡には、蠢くような「黄色い印」がびっしりと浮かび上がっています。
探索者たちは、水に浸かったリビングの真ん中にいます。
(第二層では調査やギミック解除に時間がかかり過ぎてしまう場合、水位が上がってくることを伝えてください。また水位が腰より上に来てしまった場合は行動に≪水泳≫や≪筋力≫が必要になってきます。水位はGMの采配によって上げて大丈夫です。また友人(瀬戸)を「もたつくと水が胸まで来るよ…!」という演出として使ってください。)
2. 探索ポイントと処理

図2:第二層MAP
A. 水面に浮く「郷土誌の断片」を調べる
水面に、古い雑誌の切り抜きやコピーが何枚も浮いています。どうやらこの海の家の壁の裏に隠されていたもののようです。
≪歴史≫それはこの海域で起きた数々の失踪事件の記録です。そこには「黄色の布を纏った漂流神に、舞台を捧げた一族」の記述があります。そして、今いるこの部屋の間取りが、その儀式の「舞台装置」と全く同じであることに気づきます。
≪図書館≫バラバラに浮かぶ紙片の中から、今の状況に合致する「演劇の進行台本」を見つけ出します。そこには、次に誰が何をすべきかを暗示する一節が記されています。
「……第一の幕が降り、第二の幕が開演す。
部屋に満ちる水は、舞台を清めるための涙なり。
役者は手元に散らばった「透明な虚無(アクリル板)」を拾い集め、
窓の外に広がる「絶対の闇」に重ね合わせねばならない。
漆黒を背景に、黄金の印が結ばれた時。
舞台は重力から解き放たれ、さらなる深淵へと沈下を始めるだろう。」
B. 友人(瀬戸)を≪心理学≫で見る
≪心理学≫水に濡れ、震えている瀬戸の口元を見てください。彼は恐怖に顔を歪めながらも、声を出さずに「……まもなく開演だ。」と、うっとりとした表情で呟いているのが分かります。彼はもはや、探索者の知っている友人ではないのかもしれません。
3. 深淵の窓(印の完成)
水面には、郷土誌の他にも、数枚の「透明なアクリル板」が浮かんでいます。
板には意味をなさない黒い線が引かれていますが、これを窓の外、漆黒の深海を背景にして重ね合わせると…どうなるでしょうか?
【パズルと解除】
浮いている板を回収し、窓のフレームに合わせて重ねる。
解除条件: 正しく重ねると、窓の外の闇を背景に「巨大なハスターの印」が完成。
もし探索者が抵抗(友人に殴り掛かる)などした場合、友人(瀬戸)が早くしないと溺死してしまうと言いながらアクリル板を窓の線に合わせます。
4. 第二の崩落:沈下
(パズルが完成し、印が窓に浮かび上がった瞬間に読み上げてください)
最後の板が重なり、不吉な紋章が窓いっぱいに完成したその時。
──ドォォォォォン!!
窓の外の深海から、巨大な何かが窓を叩きました。衝撃と共に、この部屋を支えていた最後の理性が壊れます。足元から床が抜けるような感覚。部屋全体が、まるで断ち切られたエレベーターのように、深淵の底へと猛スピードで急降下を始めます。
激しい水圧の音。赤い光すら消え去る暗黒。
探索者たちは、自分たちがどこへ向かっているのかを理解します。
……ここはもう、地球の海ですらありません。
第二層:クリア。さぁ、素晴らしい世界へ。
【第三層】
1. 概念の底
猛烈な急降下の衝撃と、鼓膜を突き破らんばかりの水圧の音が止みます。おそるおそる目を開けた探索者たちが目にするのは、もう海の家の残骸ではありません。足元に満ちていた海水はいつの間にか消え、代わりに「黄色いボロ布」が、腐った海藻のように一面を覆い尽くしています。
周りを見渡せば、そこは朽ち果てた巨大な円形劇場。
天井はなく、見上げればそこには見たこともない不気味な星々が輝く、ヒアデス星団の空が広がっています。
そして客席には、びっしりと並ぶ人影。…いいえ、それはすべて、動かぬ蒼白の仮面を被った物言わぬ死体たちでした。
探索者たちは今、その劇場の舞台の上に立っています。
2. 探索ポイントと処理

図3:第三層MAP
A. 舞台中央の「黄金の台本」を調べる
豪華な装飾が施された見台の上に、一冊の古い本が開かれています。─「黄衣の王」。そこには、第一幕からの探索者たちの行動が、すべて台詞として記されています。
≪教育/国語≫または≪歴史≫台本の最終ページが白紙であることに気づきます。しかし、その余白には探索者たちの本名と、用意された死の役割が薄っすらと浮かび上がっています。このままでは、物語は悲劇として完結してしまいます。
B. 客席の死体(観客)を調べる
≪目星≫または≪医学≫彼らが手に持っているのは、かつての上演パンフレットです。そこには「役を拒んだ者に訪れる、名状しがたい末路」が記されています。同時に、彼らが被っている仮面こそが、この劇場から出るための鍵であると直感します。
C. 友人(瀬戸)を≪心理学≫で見る(最終確認)
友人はもう、探索者の顔を見ていません。虚空を見つめ、何かに合わせるように拍手の練習をしています。彼の精神はすでに客席側…つまり、この劇場の「永遠の住人」として取り込まれてしまったことが分かります。
3. 配役の完結と拒絶
舞台の袖から、実体のない拍手が鳴り響きます。
舞台を完成させ、物語を終わらせなければ、あなたたちもあの客席の死体の一部となるでしょう。
さあ、どうしますか?
台本通りに「悲劇の生贄」を演じ、幕を下ろしますか?
それとも、この狂った物語そのものを書き換える「最後の台詞」を口にしますか?
≪精神分析≫恐怖に飲み込まれそうな自分、あるいは仲間を鼓舞し、正気を保って結末を選ぶために必要です。
4. エンディングの演出(GMの判断で分岐)
物語を書き換える(成功): 探索者が台本の余白に、渾身の力で「NO」を叩きつけた瞬間。 劇場全体がガラスのように砕け散ります。 降り注ぐのは星の破片ではなく、本物の波。……気づけば、朝焼けの砂浜に打ち上げられていました。
物語の一部になる(失敗/選択): 客席から割れんばかりの喝采が上がります。 探索者の顔には、もう一生剥がれることのない「蒼白の仮面」が張り付いています。 黄色の衣を纏った王が、あなたの手を取り、静かに幕を下ろしました。
【エンディング】
【パズルを完璧に解き、台本の「悲劇」を論理的に否定・書き換えた場合】
探索者が台本の余白に、渾身の力で結末の拒絶を叩きつけた瞬間。割れんばかりの拍手は、突如として悲鳴のような不協和音へと変わります。
劇場の天井が、鏡のように粉々に砕け散りました。降り注ぐのは海水ではなく、眩いばかりの星の光。
…次に目を開けた時、頬を撫でるのは冷たい海水と、柔らかな朝の陽光でした。
探索者たちは、静かな朝焼けの砂浜に打ち上げられています。
助かった……そう確信して立ち上がろうとした時。
遠く、波の音に混じって、あの劇場の「拍手」が微かに聞こえた気がしました。
探索者たちは日常に戻りました。ですが、この世界が「書き割り」ではないという証拠は、もうどこにもないのです。
END「狂った平穏」
【脱出は成功したが、真相を解明しきれなかった場合】
舞台が激しく揺れ、劇場が崩壊を始めます。
探索者は必死に手を伸ばし、崩れ落ちる壁の隙間から、逆流する海水と共に海面へと押し上げられました。
ぷはっ!と息を吐き、救助隊のボートのライトに照らされた時、探索者は気づきます。一緒にいたはずの友人…あの海の家で笑っていた彼の姿が、どこにもないことに。
警察の調べでは、その海域に海の家など最初から存在せず、友人は数日前に別の場所で行方不明になっていたと言います。
あなたの手元に残ったのは、ぐっしょりと濡れた、一枚の「黄色い布」だけ。
あなたは今も、夜の海を見るたびに思うのです。
─今、海の下で拍手をしているのは、彼なのだろうか?
END「深淵の観客」
【パズルが未完成のままタイムアップ、あるいは舞台に留まった場合】
逃げる時間は終わりました。
客席を埋め尽くす死体たちが、一斉に立ち上がり、探索者に向かって熱狂的な拍手を送ります。舞台袖から、音もなく現れる巨大な影。ぼろぼろの、しかし気品に満ちた「黄色の衣」を纏った王が、あなたの前に立ちます。
あなたが叫ぼうとした時、自分の顔に冷たく硬い感覚を覚えるでしょう。
鏡を見るまでもありません。あなたの顔には、もう一生剥がれることのない「蒼白の仮面」が張り付いています。
「おめでとう。君こそが、今夜の主役だ。」
王があなたの手を取り、優雅に一礼します。重いカーテンがゆっくりと下り、あなたの意識は永遠に続く幕間へと沈んでいきました。
END「黄衣の王の初演」
【あとがきと感想】
ここまで読んでいただきありがとうございました!
脱出しようとして探索を進めれば進めるほど深海に堕ちていく…そして探索とギミックを合わせた脱出ゲームのようなものを作りたく、ホラーと遊びが合わさったようなシナリオに挑戦してみました。PL数人で協力しつつ、怖がって楽しんでいただけると嬉しいです。真相を知りたかった、なぜこうなったのか、瀬戸くんは本当に友達だったのか、いろんな考察もあると思いますがそこも含めてお楽しみください。
テストプレイをしてみて…
・友人「瀬戸くん」について
瀬戸くんは自由に動かしていただいて大丈夫です。PLがギミックで止まってしまった際のヒントを与える役割やいかにも狂人のような立ち振る舞い、GMの好みやPLの動きに合わせて動かしていただけると瀬戸くんも喜んでくれると思います。
・エンディングについて
このシナリオにトゥルーエンドやバッドエンドというものはあえて入れておりません。ダイスで出た情報や運、選んだ結末によってPLがたどり着いたエンディングです。ここの情報が出ていたら、違う結末を選んでいたら…これがTRPGの醍醐味だと思っています。
狂った平穏END: 「助かったけど、世界が信じられなくなる」という精神的な闇。
深淵の観客END: 「自分だけが狂っているのか?」という孤独な闇。
黄衣の王の初演END: 「物語の一部に取り込まれる」という、ハスターらしい絶対的な闇。
どのエンドに行っても結局は「闇」なのですから……。


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